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ショートエッセイ
テーマ『1番美味しかった物の思い出』
私はとある宝物を持っている。
それは来るべき時に使う宝物なのだ。
しかしその宝物は夏にしか使えないのだ…
高校生の夏…
セミが鳴きクラスメイトはセミがうるさいと愚痴を言っていた。
暑くて汗がやばいと愚痴を言っていた。
制汗剤を大量につけ教室に入ると香りの束が私の鼻を直撃した。
暑い臭いきついうるさい…
私もそんな夏が嫌いだった。
だが日常的な午前の時間も早くすぎ、
1番日光が照りつける正午になった。
いよいよ来た…
宝物を開封する時が…
移動教室が多い高校生活だった。
しかし文化部の私はどの体育系の部活よりも早く動き中庭近くへ到着した。
全てはこの弁当箱という宝箱を開けるためだけの動きである…
この宝箱を開ける前から分かっていた…
これは大物だと!
口の中は溢れんばかりのヨダレで満ち溢れている。夏の喉のかわきを潤すためか、はたまた目の前の宝物を拝めるからか……
答えは両方だろう。
宝箱を開け宝物に包まれているラップを剥がす。
その中に入っていたのはゆかりのおにぎりなのだ。高級な料理や珍しいものでは無い。
ただのゆかりのおにぎりなのだ。
しかしこれが最高に美味い。
視覚で太陽を感じ、深呼吸して夏の制汗剤を感じ、耳でセミの音と友だちの笑う声を聞く。
かつて苦手だった夏も愛おしく感じながら宝物にまじないを一言……
いただきます!
その時、中庭付近でその言葉が響いた時全てが無になったのだ。
ゆかりのおにぎりに全てを集中し1口……
美味い…
その一言しか出ないほど美味い。
無駄なものが一切なく酸っぱさが全身に染み渡るのだ。
酸っぱいせいか笑う時に使う筋肉がキューっと引き締まり顔は笑顔になる。
ゴクリと食べ終えた時、無から帰り全てが聞こえ出すのだ。
私は夏を食べたのだ。カレンダーと共に進み無くなっていく夏を食べたのだ。
その夏は酸っぱく美味い。
ゆかりのおにぎりは笑顔と夏を与えてくれる宝物なのだ。
また1口また1口…止まらなかった。
しかし幸せな時間はあっという間に終わる。
3つの宝物のゆかりのおにぎりは完食しその他のウィンナーや卵焼きなども食べ終えてしまう。
ごちそうさま。
と言う時、セミの音が切なく感じた……
そして今私は大学生
お弁当は作らなくなり、
お弁当という宝物と出会えなくなったのだ
夢の時間が無くなってしまったのだ。
結果、1年はゆかりのおにぎりとは疎遠になり夏を味わえなかった…
今年の夏、セミが鳴く時
ゆかりを買いゆかりのおにぎりを作りたい。
縁もゆかりも無い場所で弁当箱を開けおにぎりを食べたい。